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■甘すぎた果実■第02話 byアキ君

 

「にーちゃん。メシだぞ〜!」
 俺はにーちゃんの部屋をノックする。
 夕食は大体俺が作ることになっている。
 具体的な取り決めをしたわけじゃないけれど、中学生の俺がにーちゃんに出来ることなんて限られてるから……夕食くらいは作ろうと自分の中で決めていた。
 ……恥ずかしいからにーちゃんに言ったことはない。
「にーちゃん! メシだって言ってるだろ!」
 何度ノックしても叫んでみても、返事はない。
「寝てるのか?」
 扉を開いて、室内を覗き込むとにーちゃんはデスクの上に置いてあるパソコンに向かっていた。
「ひょっとして仕事? ……邪魔した?」
「いや、大丈夫だよ。そんな顔するな。生意気な顔してる方がお前は可愛いぞ?」
「誰が生意気だよ!」
「そういうところが」
 気を使ってやって損した!
「もうメシか。今日も幸介の愛にあふれる手料理が食べられるんだな」
「べ、別に愛とかそういうんじゃねーけど……」
「俺のこと考えながら作ってくれたんだろ?」
「違う! そんなんじゃ……ねーん、だから…」
「そんな恥ずかしがらなくてもいいだろ? ……ありがと」
 ……なんでにーちゃんはこんなときだけ、こんなに優しい表情をするんだろう。
 いつも俺のことからかって、馬鹿なこと言って、困らせてばっかりの奴なのに。
「ん? どうした? 目がうるうるしてるぞ?」
「……なんでもねぇよ」
 そう言い放った俺ににーちゃんは近づいてきて。
「や、やめろよ! 馬鹿!」
 優しく頭を撫でた。
 そして、強く抱きしめる。
「……痛い。やめて……」
「抱きしめられるの嫌い?」
 ……俺は首を横に振る。
「そんな目をしてるなんて、誘ってるのと同じだろ?」
 今、俺はどんな顔してるんだろ?
 どんな目をしてるっていうんだろ……?
 誘ってなんか……ないのに。
「幸介……」
 そう言って、にーちゃんは俺にキスしてくる。
 舌で唇を無理やり押し広げられて、口の中ににーちゃんが入ってくる。
「ん……あぁ……ふ、んっ」
 ……俺、何しににーちゃんの部屋に来たんだっけ。
 なんか……どうでもよくなってきた。
 気持ちいい。
「……感じてる?」
 耳元でにーちゃんが囁く。
 その言葉に。
「うん……」
 俺は素直に頷いてしまった。
 にーちゃんは俺の顔を見て、にっこりと笑う。
「あれ? メシだって呼びに来たんじゃなかったっけ? メシはいいの? 俺、腹空いちゃったな」
 その笑みはとても……
「いじわる……」
 俺はにーちゃんの服の裾を握って、つぶやいていた。
 いつもならこんなこと俺は……言わないはず。
 どうしちゃったんだろう。
「……キスでどっかスイッチが入っちまったか……いつもこんなふうに素直ならいいのになぁ。くそぉ可愛い。いや、でもこれはこれでつまらないかも……」
 にーちゃんがなんだかぶつぶつ言っているけれど、よく聞こえない。
「キスがどうしたの……」
「いや、快感で真っ赤に染まった顔で見上げられると、堪らないものがあるなと思ってな」
「?」
「こっちの話だから、気にしなくてよろしい」
「……うん」
「よし、じゃあベットで……する?」
「……わかった」
 俺はにーちゃんに促されるままにベットへ。
 ベットに腰かけるとそこからはデスクのパソコンディスプレイが丸見えだった。
 ディスプレイは赤や黒といったおどろおどろしい色が乱れ飛んでおり、そこには大きな文字でこう書かれているのが目に入った。

 尿道責め。

「…………」
 上着を脱ごうとしていた手が止まる。
 なんだか頭の中が妙にすっきりしてきた。
 俺は今、何をしようとしていたのだろう?
 にーちゃんにたぶらかされていたような気がする。
 今、一番大切なものは何か?
 それはメシだ。
 ……エッチじゃない。絶対エッチじゃない。違うんだから。
「にーちゃん……えーと、メシだから早く食べちまおう。冷めたら美味しくないから……」
「どうした〜幸介? 急にそんなつれないこと言うなんて、いつものお前みたいだぞ?」
 いつもの俺がどうしたっていうんだ?
 いや、今までの俺が変だったっていうこと?
「なんか、そういう気分じゃないから……」
「エッチしたいって言ったじゃ〜ん! 何? お前、平気でウソつくような奴だったわけ? ショック〜!」
「いや、そういうわけじゃなくって……てか、あれは何だよ! あんなもの見たらさすがに引くわ!!」
 俺はにーちゃんのパソコンを指さして吠える。
 にーちゃんは指の指し示す方向をじーっと見つめ、手をポンと叩く。
 そして。
「アブノーマルなエロサイトだが?」
 平然と言い放った。
「いや、さすがにそこまで開き直って直球で言われると俺としてもどうしたらいいのか」
「幸介。この家でのふたりっきりの暮らし。すんげー楽しいよな?」
「楽しいことばかりじゃねーけどな」
 精一杯嫌味を込めてやった。
 すんげー嫌な顔をわざと作ってやる。
「そうだろう、そうだろう。楽しいよなぁ。なんたってお前からしてみたら愛しの兄とふたりきりの生活。あんなことやこんなこと盛りだくさん。ラブラブだもんな」
 聞いちゃいねぇ。
「でも、やっぱりマンネリというものはやってくるんだぞ?」
「はいはい、そうですか」
「そうなんですよ」
 流したのに、気にしないか。
 さすが馬鹿兄。
「それでだな、俺は新感覚を求めてネットをさまよっていたわけだ! 全て俺とお前のラブラブ生活のためなんだぞ?」
「ラブラブねぇ……その結果がそれ?」
 ディスプレイを指差す。
 あからさまに不審。
 よくはわからないけれど、嫌な予感しかしない。
「お前も気になることだろう。中学生でまだまだオコサマのお前にもよ〜くわかるように説明してやるからな」
「いや、聞きたくねーから。メシ冷めちまうぞ? 早く食おうぜ」
「……尿道に」
「聞きたくねーっつってんだろうが! ボケ!! 俺が作ってやったんだから早く食べろ! あったかいうちに食べてほしいんだよ!!」
「ぐは……!! えぐるような痛みが……」
 俺はにーちゃんの腹に拳を入れ、そのまま放置。
 部屋を後にする。
「ったく。馬鹿じゃねーの? いや、馬鹿なのは前からか……」


 そういや、最後の最後にすげぇ恥ずかしいことを言っちまったような気が……気のせい?
「そうか〜! やっぱり幸介は俺のために手料理を作ってくれたんだよな〜? これは愛だよなぁ♪」
 にーちゃんの俺をからかう声が聞こえてくる。
「『あったかいうちに食べてほしいんだよ!!』かぁ〜。可愛いなぁ、お前って」
 ……やっぱり気のせいじゃなかったみたい。
「もっと素直になっていいんだぞ〜? いい子いい子してやるからな〜!」
「なんかもう腹立つ! 殴る! もう一発殴る!!」
 俺は再びにーちゃんの部屋めがけて走った。


「うっせぇ! この馬鹿が!!」
「げふ!!」

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